(5)

3/15

174人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
「そんなこと言ったって人間の三大欲求だよ? なかなか抗えないってー」 「人間には理性というもんがあってだな、眠たくても目をかっ開いてやり過ごし、腹の虫が鳴いても聞かぬふり、可愛い子を見てちょっかいかけたくても妄想で我慢。それが理性だ」 「逆に不健全だよセンセー。ボクが許したげるから声くらいかけなよ」  高瀬と教師が漫才のような掛け合いを始め、授業が大きく脱線して行く。自分から関心が逸れたことにほっとすると、途端に誉は久住の様子が気になった。  朝、誉が着替え終わってしばらくした頃、特に雨の影響を受けた風でもなく久住はやって来て、いつものように挨拶ひとつすることなく席に着いた。心配される程度には気にかけてくれるようになったからといって、一朝一夕で態度が変わるわけではないらしい。ですよねー、なんて心の中で項垂れながら、自分から挨拶すればよかったかも、と後悔した。  そこでふと、挨拶くらいなら返してくれたのだろうかと疑問が浮かぶ。別に嫌われているようでもないので、意外と普通に返ってくるのかも、と妙にポジティブに考える。     
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加