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 誉は軽く一連の情景をシミュレーションして、いや待てよと冷静さを取り戻した。それを切っ掛けにまた調子に乗って話し掛け、見えない壁を装備されたら先日の二の舞だな、と気を引き締めるように考えを改めた。  どうしてこんなに久住に対して必死なのか、ということには目を背けたまま。  伸びすぎた前髪をかき分けて、ちらりと久住を窺った。てっきり我関せずを貫いているかと思いきや、肘をついて誉を凝視していた。  何かしたのだろうかと、つい先ほどまでの行動を思い返してみる。しかしまったく心当たりもなく、動揺で机に転がしていたシャーペンの芯を意味なく打ち出してしまう。  これは誉を見ているようで実はその向こうを見ているのかも、などと現実逃避したところで一向に視線は外れなかった。  どうしたらいいんだと軽くパニックに陥り、合わさった視線の外し方が分からなくて焦りが増す。シャーペンの芯を打ち出していた手も動かなくなった。  考えれば考えるほど収拾がつかなくなり、おまけに緊張と羞恥で頭がくらくらする。泣きそうだ。  もうだめだと耐えられなくなって、誉は引き剥がすように久住から顔を背けた。体を巡る血液は今顔に集中している気がする。思惑の読めない表情に困惑するのと、恥ずかしさのせめぎ合いだ。  いったい何だというのだろう。  自分の顔に何かついているのだろうか。     
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