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 火照る肌にこっそり触れてみたがこれといって何もない。顔が少し熱っぽいだけだ。いつものように中指で眼鏡フレームを押し上げようとして、漸く気が付いた。フレームを押し上げるはずが、指に感じるのは皮膚だった。火照った肌が一気に白くなる。眼鏡が壊れた日以来スペアの眼鏡を掛けていたから、愕然とした。  朝、土砂降りの雨の中、湿気で曇る眼鏡のレンズが視界を悪くして危ないと思い、外して登校した。特別室で着替え終わってから、ついでにレンズも拭こうとブレザーの胸ポケットに仕舞い込み、そのまま忘れていたのだ。普段ならそんなうっかりをすることもなかったのだろうが、教室とは違う圧倒的な生徒の少なさと、自分に関心のない二人に気楽さが気を緩めていたのかもしれない。  とはいえ、何かに気付いたとしても、久住は元々誉に関心がないのだから、誰かにふれまわったりもしないだろう。取り乱す必要もないということだ。  そのことに少しだけ肩を落とし、誉はそんな自分に驚いた。  女装モデルをしていることを気付かれるのは何としても避けたいのは本当だ。だけど誉自身に興味を持ってもらえないのが、ひどく悲しい。そんな身勝手な思いを擡げたところで、クラスの誰からも必要とされない人間が、興味の対象になどされないことも分かっていた。  誉はそんな風に自己分析してみても、古傷が気圧の変化で痛むようないつかの久住の拒絶を、気持ちの下降とともにしくしくと痛めていた。     
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