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 ポジティブになったりネガティブになったり、我ながら目まぐるしい。久住のことに関しては自分の制御出来ないところを振り回され、ジェットコースターにでも乗っている気分だ。楽しいのか辛いのか苦しいのか。全部当てはまるようで、そのどれも当てはまらないような気がした。  誉は椅子の背に掛けていたブレザーのポケットから眼鏡を取り出すと、レンズを軽く拭いて何事もなかったように掛ける。  もっとかかわりたい。これ以上かかわりたくない。話したい。話したくない。  相反する思いが浮かび、持て余すように誉はいまだ降り続く雨を仰ぎ見た。  人はいつだって矛盾に満ちている。    ***  小雨の降る放課後、誉はぐっと伸びをしたまま机に頭を伏せた。  今朝、特別室生活が始まる前に受けた数学の小テストが返却された。規定の点数以下だったため、本日中に担当教師の元まで誤答を直して提出することとなり、今に至る。当然のように誰も居残っていない。  誉はぐったりと机に寝そべっている体に鞭打って起き上がると、のろのろと荷物をまとめて職員室に向かった。担当教師の方が先に誉に気付き、久しぶりだな、などと軽口を叩いてくる。教師は一通り目を通すと、特に何か言うでもなく解答用紙を受け取り、誉を解放した。やっと帰れる。  肩の荷が下りたのも束の間、もう一仕事残っているのだと思い出し、誉は長い長い溜め息を吐いた。     
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