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外は雨。制服のズボンはしっかり乾いていない。さらに気分が下降する。また雨に濡れることになるのかと思うと、もう何でもいいやと投げやりになった。向かう場所はモデル事務所だ。
学校の最寄り駅から二駅先にある繁華街は、誉にとって行き慣れた場所でもある。中学生の頃から遥夏のおつかいとしてモデル事務所に何度となく出向いていたため、現在では自宅周辺レベルにまで地理を把握していた。
中学生だった当時は自分の目に映るものすべてが新鮮で、おつかいというより探検している気分だった。毎回違うルートで駅までの道のりを探索しては、頭の中の地図を埋めていく。親と同伴ではない妙な開放感と、子供一人という心細さに加え、いつ何どき悪い大人に絡まれるのではという緊張感で、まるでRPGの主人公にでもなったようだと胸を躍らせていたことが懐かしい。
今となってはその道のりも妙な開放感や心細さもなく、ただ無感動に事務所に行くまでのタスクと化している。
当然ながら悪い大人というモンスターにも出会うことはなかった。幸か不幸かモンスターは道のりではなく、事務所にいたというのが恐ろしい現実である。
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