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(どうせ見られても、誰にも気付かれないだろうけど…)  片膝をついて荷物を拾い上げながら、誉は気付かれたときのことを想像して途方もなく気が滅入った。  ことの発端は春。二年に進級して皆クラスに慣れてきた頃、遥夏の所用──という名のパシリ──で雑誌紙面の撮影が行われている、モデル事務所兼スタジオへ訪ねたときだった。  いつものように受付で名を名乗れば、言わずもがなで通される。  こちらの都合にお構いなく呼び立てるわがままな姉に、誉は不満ゲージが振り切れそうになっていた。数少ない友人の誘いを幾度となく断るのは情が薄いようで心苦しいし、高校生活を平穏に過ごしたい誉にとって、友人との間に波風を立てるのは死活問題でもある。そして遥夏の用事を無視出来ない自分の不甲斐なさにも嫌気がさしていた。  デモを起こしたい…、そんなことを考えながら勝手知ったるスタジオの扉を開ければ、関係者たちが何やら深刻な顔で話し合っているところだった。何事だろうと思いつつ、暇そうに壁に凭れていた遥夏を見つけ不満をぶつける。 「いいかげんにしろよ。俺にだって付き合いがあるんだからな。くだらないことだったら帰るぞ」 「あんた靴のサイズは?」     
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