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 合意かどうか尋ねる以前に、高校生男子が男に押さえつけられ、泣きながらもがいているのを見ておかしいと思わないのか。それとも久住にはこれがプレイか何かに見えるのか。  状況も関係なくふつふつと怒りがわき、火事場の馬鹿力のごとく誉は最大限に体を捻った。  是が非でも声に出して言いたい。 「これが合意に見えんのかっ! ばか!」  坂上の手を振り切って張り上げた声に、久住が応えるように水たまりを蹴った。すぐさま誉の元まで駆け寄ると坂上から引き剥がし、庇うように前に立って不快感も露な顔で吐き捨てた。 「警察に突き出されんのと、俺にボコられんの、どっちがいいか言え」  久住の不穏な言葉に慌ててシャツを掴んだ。やめてくれと訴える。  友人でもない自分の為に暴力沙汰を起こして何になるというのだ。  学校に連絡がいけば今よりももっと重い処分を下されることになるだろう。下手すれば退学だってありえる。そんなことになれば自分はずっと悔やみ続けるにちがいない。一時の感情で人生を棒に振るようなことは、決してさせられない。  久住が現れたときは心底嬉しかったけれど、彼に丸投げしたいわけじゃないのだ。  誉は久住の隣に並ぶと顔を上げ、毅然と言い放つ。 「…帰って下さい、坂上さん。二度とこんなことしないで下さい」 「……またね」     
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