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 諦めとともに吐き出された言葉は、本音をすり替えた収まりのいい響きなのに、誉の心臓をきゅっと締め付けた。  とても苦しくて、とても苦い。もう味わいたくない、そう思うのに気持ちは貪欲に苦い蜜を求める。  誉は雨に濡れて張り付いた前髪をかき上げ、久住を見上げた。 (ああ、好きだなあ…)  ただただ実感し、行き場のない気持ちを持て余す。友だちとの距離感も、感情も、遠い昔に置いてきた誉にも、これは恋なのだと観念した。吐き出すことも、消化することもできず、この先ずっと抱えて行くのかもしれない。  次第に雨脚は強くなり、瞼や頬、顔のいたるところを雨に打たれ、まつ毛に落ちる雨粒が跳ねる。久住は一瞬息を飲み、食い入るように誉を見つめた。すぐさま我に返ったのか顔を隠すように手をやり、あーだかうーだか分からない言葉を発して大きく息を吐いた。 「…とりあえず、うち来るか?」
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