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成り行き上、久住には話してもいいとは思う。けれど話すとなればこうなった経緯もつまびらかにしなければならない。アルバイトの時間も差し迫っている。二、三分で終わるような話だろうか。そもそも久住は話を聞いたら気が済んで解放してくれるのだろうか。
悩んだ末、誉は恐る恐る右手を挙げた。
「…あの、タイムをお願いします…」
「…勝手にしろ」
久住は呆れながらも怒らずに待ってくれるらしい。遥夏ならすぐさま小言が飛んでくるところだ。
案外心が広いのかもしれないな、と知らなかった一面を心にメモし、自然と頬が緩む。遥夏しか比較対象がないのが残念な話だが、新たな発見は単純に嬉しい。そんな自分を悟られないよう、急いでスマホを取り出すとSNSのアプリケーションを立ち上げた。
(ちょっとトラブった。少し遅れる。あとはよろしく…と)
遥夏へのメッセージ欄に簡素に記入して送信する。すると間もなく既読になり、『了解』とだけ返ってきた。
画面をスリープモードにすると、誉は久住に向き直って躊躇いながらも口を開いた。
「少し長くなるんだけど、いいかな?」
***
エアコンから吐き出される温風の恩恵は、身を纏っている服があってこそ意味があるのであって、半年分くらい季節を先取りした薄着では、たとえ照明の熱をプラスされたとしても身体の芯までは暖まらない。
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