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 壁に凭れて腕組みしたまま、遥夏は誉の靴をじっと見る。 「は? 二十五だけど…」  意味も分からず素直に答えれば、 「小林さーん」  遥夏は聞くだけ聞くと小林と呼ばれ振り返った男性と、誉の方を指差しながら真剣な面持ちで話しはじめた。すぐにその男性が誉に近づき、品定めするように誉の周りをぐるりと回る。 「この子でいくわ」  この一言であれよあれよという間に誉は、小林に化粧を施され、季節外れの衣装に袖を通された頃には見事なまでの『女子』が出来上がっていた。深刻そうな撮影関係者、靴のサイズ確認、化粧、季節外れの衣装。点と点を線で結ぶと自ずと答えは導きだされる。 「怪我で入院した子の代役、できるよね?」  遥夏は誉の傍らに立つと、肯定しか受け入れない笑顔で尋ねてきた。 「はああああああああっ?」  こうして誉は女装モデルとして華々しく(?)デビューしたのである。  腹立ちまぎれに勢いをつけて立ち上がると、またしても後ろからの衝撃で地面に手をついた。弾みで掛けていた眼鏡が再びカツンカツンと乾いた音を立てて跳ねる。あ、と思う間もなく、ガリだかバリだか分からない嫌な音を立てて眼鏡は踏まれ、割れた。     
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