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 カメラのフラッシュを浴びながら、寒気のする身体に鞭打って要望通りのポーズと笑顔を向けると、ようやく撮影は終了となった。  誉は肺の奥深くからしぼり出すように息を吐く。安堵と不安、複雑な思いとともに吐き出された溜め息は、誰にも気付かれることはなかったが慌てて吸い込んだ。自己満足だが深呼吸のように取り繕う。  〝溜め息を吐くと幸せが逃げて行く〟とはよく言ったもので、心配事や厄介事が心を占めているときだからこそ出るのだ。そんな風に考えるのも悪循環を断ち切りたいからこそである。 「誉くん調子悪いの? 大丈夫?」  背後から先輩モデルが心配そうに誉の顔を覗き込む。 「あ…はい、大丈夫です。ちょっと寒かったくらいです。ありがとうございます」  感じ良く見えるように笑顔を貼付けて答える。 「じゃあ早く着替えないとだね。お先にー」 「お疲れさまでした」  誉にあまり深く訊くこともなく先輩モデルはスタジオを出て行った。見送り終えるとスマホを取り出し久住に連絡を入れる。 「峰石だけど。バイト終わったから」     
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