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 数回のコール音のあと繋がってそう告げると、ざわざわとした環境音とともに十分ほどで行くから待ってろ、と言うや否や電話は切れた。誉の返事も待たずに切るくらいだから忙しいのかもしれない。やはり久住のアルバイト先まで行こうかと思い、掌のスマホをじっと見つめて思案する。ふと視線の先にパステルグリーンのショートパンツから伸びた自分の脚が見え、これ以上ないほどげんなりした。姿見に映る自分の姿は、誰が何と言おうと違和感しかない。 「…着替えよう」  独りごちて、まだ居残っているスタッフに挨拶をしてスタジオを出た。  控え室兼ロッカールームで黙々と着替え始めれば、ふと鏡に映る自分の姿が目に入り顔をしかめた。今日は自前の少し長めのショートヘアを生かし、ふんわりとした空気感と丸みのある『愛されガーリィヘア』にセットされたのだ。ヘアメイク担当の小林曰く、今いちおしのヘアスタイルであるらしい。  無理やり遥夏にモデルの仕事を引き受けさせられたあの日から、ヘアメイクは小林が担当している。彼はいつもご機嫌に誉のことを『女子』に仕上げては無駄に褒めちぎる。可愛い、美しい、天使などと男の誉にとってなんの賞賛にも値しないことを連ねるのだから、ただでさえ気が乗らないのに益々やる気を削がれて不貞腐れたくなる。小林も仕事だから気分を上げるために言っていることだと割り切ればいいのに、いつまで経っても慣れないのは男としてのプライドがあるからだろう。 (ていうか、プライドは捨てちゃいかんだろ)  誉は手でぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜて、無造作に乱した。自前の髪にホットカーラーでボリュームを保たせただけなので、崩れた髪を見て幾分か気が治まった。     
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