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気持ちを切り替えシャツに腕を通し、じんわり湿ったズボンに足を入れると冷たさに体が震える。生乾きの服は着ているときはいいが、再度着るとなると何ともいえない気分になる。
薄着でいるのと湿った厚着を着るのとどちらが温かいのだろう、と詮無いことを考えている間に着替え終わった。
壁に設えた鏡の前に置かれているプラスティックケースから、化粧落とし用のシートを一枚抜き出す。こんなものですべて落としてしまえるのだろうかと初めは訝って説明書きを読んでいたが、次第に些末なこととして気にも留めなくなった。毛穴の中の汚れまで浮かすといったところで、肉眼で確認出来ないのだから考えたって仕方がない。髪につけたワックスやスプレーなどの整髪料が、シャンプーで全て洗い流せるのかという疑問と一緒だ。
誉は無表情でごしごし顔を拭くと、深く息を吐いて汚れを拭き取ったシートをゴミ箱へ投げ捨てる。ようやく本日の仕事を終えた。
手荷物を持って控え室を出ると、水分を含んで重く冷たい不快なズボンとは対照的に、誉の気分は晴れて快いものになっていた。一仕事終えた開放感だけではない、浮き足立つような心地は、これから来る久住のせいかもしれない。
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