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「おまえのバイトがある日は、行き帰り一緒に行動しようぜ」  その言葉を聞いた誉は、先ほど以上の衝撃を受けて真顔になった。一瞬自分の耳を疑い、久住をまじまじと見つめてしまう。  青天の霹靂とは何度もあることなんだろうかと真剣に考える。  そもそも霹靂とはどういう意味なんだ、漢字が難しすぎて書ける気がしない。などと務めて冷静に考えようとすればするほど明後日なほうに思考が流れていく。  なんだよと少し不貞腐れたような面持ちで見つめ返してくる久住は、次第に困ったように瞼を伏せた。  彼は少し不器用なだけで優しいのかもしれない。初めの出会いこそあまり良い印象はなかったものの、久住は噂されるような暴力や恐喝といったことを誉にすることはなかった。素行の悪さは事実だとしても、むしろ──理由は不明だが──食事を提供したり危ない目に合っているところを助けたりと、とてもまっとうな人間だと思う。  心配だから行動を共にしてくれるというこの行為に、久住は何を思っているのだろうか。ほんの少しでも誉のことを案じてくれたのだろうか。興味を持ってくれたのだろうか。  心がくすぐったくなって、甘い疼きがじわじわ広がる。 「…ありがとう。じゃあ、お願いしてもいいかな」     
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