(7)

1/16
前へ
/182ページ
次へ

(7)

     7  あれから久住とはアルバイトのある日の下校を共にしている。仕事が終われば最寄り駅まで送ってもらい、自宅近くの駅に着いたらメールで報告し、そこからは姉の遥夏や母親に迎えに来てもらっていた。  さすがに高校生男子として自宅から徒歩十分くらいの道のりを、最寄り駅まで家族に迎えに来てもらうのも如何なものかと思うものの、久住に断固として迎えを約束させられた。 (渋ってたら俺が家まで送るとか言うし…。何なんだよ。無駄に彼氏力発揮するなよ)  絶対に自分のものにはならないのに、勘違いしてしまうような優しさが嬉しくもあり、たまらなく悲しい。いつかその優しさが女の子に向かうと思うと、重苦しいものが地層のように嵩を増した。  久住に優しくされるたび、心は素直に喜びながらも頭は理性で押しとどめ、現実と向き合う。ぬか喜びだったときの哀しみはもう味わいたくはない。いつだって脳裏を掠めるのは、廊下で打ちひしがれて涙した小学生の自分だ。あんな思いは二度としたくない。  誉はひとつ息を吐き出し、どうしようもない感情に振り回されないように、今日もまた何でもないふりでやり過ごす。     
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加