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 まあいいやと早々に考えることを投げ出すと、一瞬唇に柔らかいものが触れた感じがした。  気のせいかもしれない。誉ひとりでまどろんでいるこの中で、誰が触れられるというのだろうか。  だけど味わったことのない優しい感触に、誉はうっとりと目を閉じて思い返す。 (きもちいい)  そんなふうに思っていると、二度、三度と触れられ沈もうとしていた意識がまた浮上した。ゆっくりと確かめるように唇と触れ合わされ、誉の周りの水の膜が水泡となってぽろぽろ剥がれていく。  優しく誉のバリケードを崩していく見えないモンスターに、いっそ自分ごと突き崩されたい衝動に駆られた。  何もいらない。  何もかも壊されたい。  跡形もなく消えてなくなればいい。  最後に残るのは〝なくなった存在〟だけでいい。  『404 not found』そう示すように過去に囚われず、ただそこにあった事実だけを残して、乗り越える勇気が欲しかった。  幼かった自分を慰めてやる優しさを。 「………」  ふっと瞼を開ければ、白い天井とクリーム色のカーテンが目に入った。視線を落とせば、やはりそこにも白が目に入る。掛け布団に包まれた誉は状況を徐々に理解する。 (…久住が運んでくれたのか)  サイドテーブルに置かれた誉のスマホとアップルジュースを目に入れ思った。     
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