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 久住と一緒にいられる時間をカウントダウンすると焦りばかりが先立って、四六時中彼を想うことを止められなくなる。気が付けば目で追い、想えば想うほど心は埋め尽くされて眠れなくなる。眠れなくなれば強制的に身体に疲労を与えようと、久住を想いながら昂る下腹に手を伸ばす。また翌日も繰り返す。  そうした悪循環から今回の寝不足で倒れるということに繋がったのだ。迷惑も心配もかけたことは反省してもしきれない。 (それに、あんまり久住と顔見て話せなくなったし…)  久住には自業自得の罪悪感から些か感じ悪い態度をとってしまい、先ほどの気遣いが心にしみた。  特別優しくされたわけではない。ただ、自分との些細な会話を覚えていてくれたことが特別なのだ。久住にしてみれば軽い気持ちでしたことだとしても、誉にはそれが胸が苦しくなるほど特別な出来事だった。  だから、大切にしなければと思う。  この気持ちは自分だけが大事にしていけばいい。  久住にも、誰にも知られないようにひっそりと抱えていこうと、改めて気持ちを固める。そうしなければ、またあの頃のように大切なものがなくなってしまう。  それだけはだめだ、と誉はきゅっと唇を引き結んだ。 「峰石!」  気を引き締めたところで廊下の後方から声が飛んできて、誉はびくりと肩を竦ませた。そろそろと振り返ると、加藤が屈託ない笑顔で駆け寄って来るところだった。 「やっと会えた! 元気だったか? なかなか会えないから心配してたんだ」 「あー…、うん。でもあと一週間くらいだから…」     
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