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その仕草に誉はふっと力が抜けて、思わず笑みが溢れた。
たしか以前、誉は「アドレスを新しいものにしようと思って」と曖昧な断り方をしたはずだ。
「そうだね…。遅くなってごめん。やっと新しいアドレスができたんだ」
「なっが! 時間かかりすぎだろー。俺、聞いたの春だぜ? もう冬だっつの」
「あー、季節を跨いだね」
「…ちょっと文学的な言い回しして、うやむやにしようとしてるだろ」
「文学的…」
「あ、バカにしてる。俺が現代文苦手だからって」
「じゃあ古文得意なの?」
「もっと無理」
二人で顔を見合わせ同時に吹き出した。久しぶりに何も考えず笑えたことがとても嬉しい。そしてとてもリラックスしている。
「そうだ。女子が寂しがってたぞー。〝峰石くん居ないと華がなーい〟とか言って」
加藤はことさら強調して女子の口まねをする。
「華なんかないし。地味だし。女子とまともに話したこともないのに」
「はいはい。おまえは隠してるつもりだろうけど見る人が見れば分かるんだよ」
加藤はそう言うや否や、誉の眼鏡を自分の胸ポケットに引っかけ前髪を持ち上げた。
「あっ! 何するんだよ!」
「ほら、鏡見てみろ。女子に負けてねーぞー」
「もう…やめろって!」
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