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 黙って頷くだけの誉に奪っていた眼鏡を掛け直すと、加藤は含み笑いをしながら廊下の先を見る。つられて誉も顔を上げれば、機嫌の悪い顔で歩いてくる久住が見えた。  加藤に急かされスマホにお互いのアドレスを登録すれば、ちょうど久住が誉の傍らに辿り着いた。 「用が済んだなら、戻るぞ」  誉の腕を掴み、久住は強引に特別室へ連行する。加藤が「二人とも仲良くしろよー」と場違いに呑気な声をかけ、誉が驚いて振り向けば、久住が心底嫌そうな顔をしてチッと舌打ちして立ち止まった。  久住を怒らせた…と焦り、反射的に何か言わなければと口を開く。 「ご、ごめん! 加藤に悪気はないと思うから、怒らないでやって!」  こんなところで乱闘になってはまずいと、必死に宥めようと両腕で久住にしがみついた。「…とりあえず手を離せ」  溜め息まじりにそう言われ、誉は慌てて久住から離れた。  久住に暴力沙汰を起こさせるわけにはいけないと思わずしがみついたが、男にそんなことされるのは不快だったかもしれない。しかも端から見れば誉が一方的に抱きついたようにしか見えない格好だ。幸いここには加藤しか居らずそんな誤解を受けることはないけれど、加藤自身が久住を面白がっている節がある。  誉は羞恥で頬がじわじわ熱を持つのが分かった。     
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