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 彼をこんな間近で見たのは初めてだったが、結果、どこをとっても嫌味なくらい格好良く、可愛さ余って憎たらしさがただならぬ勢いで湧いてくる。 (俺だってこんな外見だったら女モデルなんかやってねーよ)  家族だけは知っていることとはいえ、公言できない秘密と自身のコンプレックスによる不満。面と向かっては言えないので、ひっそり心の中で不貞腐れる。そうでもしないとやっていられない。  そんな誉も妬む彼にはイケメンという輝かしい肩書きとはまた別に、悪い噂を耳にしたことがある。喧嘩や暴力、恐喝といった下手すれば退学ものの悪い噂。友人の殆どいない自分のところへさえも入ってくるその噂話に、できるならば卒業するまで関わりたくないと思った人物だったのだ。それがよもやこんな形で関わり合うことになるとは、予想だにしなかったが。 (遥夏はキレるし、眼鏡も割れて、不良と対峙しなくちゃならんとか、今日は厄日かな…)  誉は心を無にして遠くを見つめていると、 「つーかお前もさ、こんなところでボサッとしてんのも悪くね?」  と、眼鏡を割った張本人は、悪びれもせず言い放った。 (この状況でその言い草とは…さすが不良)  怒りよりも、その悪びれない態度に清々しさを感じ、関わりがなければうっかり羨望の眼差しで見つめてしまうところだ。が、冷静に割れた眼鏡の現実を再確認する。     
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