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     8  殆ど抵抗という抵抗をせず、ただどうすればいいのか分からなくて何度となく久住の名前を呼んだ。応える言葉はない。誉の服を剥ぐ手は乱暴なようでいて、傷付けないよう慎重だった。  怖くて震えるのか、寒くて震えるのか、それともこんな状況でも触れ合える喜びに震えるのか、誉自身にも判別出来なかった。だけど自分の浅ましい部分を認識すると、体は勝手に熱を上げる。  床に転がったままの誉に膝立ちで跨がっている久住は、不安に揺れる表情を見せたが、奥歯を噛みしめ制服のジャケットとネクタイを抜くと投げ捨てた。  シャツも続けて脱ごうとする久住の手を掴んで止めさせた。これから行われる行為の生々しさを感じて、誉は無意識に手を伸ばしていた。  これは合意の行為だ。しかし感情を傾けてはいけない。肌と肌を、心音と心音を重ねることは、お互いの想いが同じでなければ辛いだけだ。  求め合う行為がきれいなだけではないことは知っている。  欲を吐き出すためだけの相手を探す人だってたくさんいる。     
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