(8)

3/17
前へ
/182ページ
次へ
 ぽつりと呟き、誉を詰った。それが合図だったように、久住はもう動きを止めることはなかった。  それでいい。  誉自身が望んだことだ。久住が欲しかった。夢の中で求めていたことを現実にまで手を伸ばしたのだ。  なのにどうしてか哀しい。胸が痛い。  好きだから、手を伸ばすべきではなかった。それだけは分かった。 「…っ」  上半身を脱ぎ捨てた久住が、ベルトを外しながら上から見下ろしてくる。険しく眉間を寄せながら、何か言い淀んで口を閉じた。  顔を背け、ぎりっと奥歯を噛み締めるその横顔を誉は苦い思いで見つめた。  久住は後悔しているのだろうか。  それとも、憐れんでいるのだろうか。  瞬間、誉は苛立った。挑むように久住を見上げる。  肌をあらかた晒された扇情的な状態にもかかわらず、掴みかかりたい衝動に駆られた。  憐れまれたくない。  可哀想なことなど何一つされていないのだ。  そんな目で見られたくない。  怒りで唇が震える。震えないように噛み締めれば、久住が誉の瞼を手のひらで覆った。  「馬鹿が」  久住は吐き捨てると、空いた手で誉の肌を宥めるように弄る。唇は耳元、首すじ、鎖骨とゆっくり辿りながら、きつく優しく交互に刺激を与えた。胸の尖りを熱い舌で舐め、柔く食まれればもどかしいような快感が背筋を抜ける。     
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

174人が本棚に入れています
本棚に追加