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直後久住の手に、追い立てられるように無理やり達せられた精が吐き出された。
倦怠感の広がる体を投げ出し、誉は荒い呼吸を繰り返す。無防備に肌を晒していることも全く念頭になかった。
「まだ終わってねぇから」
その声を聞いて久住を仰ぐと、まだ濡れた気配を感じた。怠さの残る四肢に慌てて喝を入れる。床に肘を付いて上半身を支え、膝を立てて久住から離れようと足掻いた。床を滑る踵をすぐに引っ込めようとすると、誉の足首を掴み引き摺られるように寄せられた。
「セックス、してねぇだろ」
久住の、唇の片端だけほんの少し上げて笑う姿に、以前のような感情は見い出せなかった。自嘲気味に苦く笑う姿がそこにあった。
胸がぎしぎしと軋んでいく。
心のどこかで久住に期待していたのかもしれない。
一瞬でもいい。
いつか見せてくれたように、誉にしかわからないほど小さく笑う姿を見せてくれると思っていた。辛そうに歪めた表情でなく、穏やかな。
(そんなこと、絶対ないのに)
こんな状況で、ましてや男相手なのに自惚れていたのだろうか。勘違いも甚だしい。
誉は諦めとともに静かに息を吐き、全てを受け止めるべく久住の背に手を回した。
胸の軋みはどんどん酷くなっていった。
***
「帰るぞ」
「……」
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