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学校から急いで帰ろうとしていたら、後ろから近づいてきた車がすっと横に停まった。きゅきゅっとゴムがガラスに引っかかるような音を立てて、その助手席側の窓が開いた。開いた窓から笑顔のかっちゃんがのぞいた。
「よ、ひなチャン、お帰り。車乗ってくか?」
「かっちゃん!乗る、乗して」
「相変わらず元気だな、俺のひなチャンは」
「その呼び方止めてよ、俺には立派な陽向って名前があるんだから」
「はいはい、ひ・な・たくん、なんだか今日は嬉しそうだな」
「いっつもそうやってからかう。ま、いっか、かっちゃんなら」
「そっか、陽向がこんなに喜んでくれるのなら、ゴールデンウィークも帰って来るんだったなあ」
「そうだよ、どうして帰ってきてくれなかったの?」
「まあ、ん」
頬を膨らせて拗ねてみせる。かっちゃんは「まあ」と言ったきりで、黙り込んでしまった。
もしかしたら、かっちゃんはあのことを気にしているのかな。あの時の衝撃は確かに忘れられないよ。
「ねえ、かっちゃんってさ、男の人が好きなの?」
「馬鹿、お前いきなりっなん、なっ」
大きな音を立てて車が止まった。後ろの車が急ブレーキして「あぶねえじゃねえか!」と、どなりながら追い抜いて行った。
かっちゃんは左に車を寄せると、少し窓を開けて話し出した。頭をハンドルの上に重ねた手の上に乗せて、遠くを見ながら、俺の顔は一切見ないで。
「やっぱ見られてたか。うん、そんな気はしてたんだ」
「あの人は恋人なの?」
「んー?セフレって、陽向には理解できねえよな」
そのくらいわかる。今の時代ぐーぐる大先生が、かっちゃんの次にいけない事も教えてくれる。どんな人かは分かるけど、その存在の必要性は分からないし、分かりたくもない。
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