6  聞きたいこと、言えないこと

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忘れ物か?の問いにそんなとこですかね、とよそよそしく応えた彼女を待つこともできたが、きっとそれすらも困らせるだけなのだろうと帰る決心を付ける。 「そっか。……じゃあ、また明日な」 何とかその一言を絞り出して、彼女の横を通りすぎた。 彼女の乗ってきたエレベーターに俺一人だけが寂しく乗り込む。 「おやすみ」 「……はい……おやすみなさ……」 その応えた声が、潤んでいるような気がした。
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