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 山の南斜面にアパートがひしめき合う大学の裏手に俺の下宿はある。この学生向けの古いアパートは2階建てで6畳一間が上下階合わせて6部屋あった。俺の住む103号室は玄関から入って一番奥にあった。  ある日、201号室に住む先輩を訪ねてきた友人が、奇妙な皮膚病にかかって倒れている先輩を見つけ救急車を呼んだ。大きなサイレンの音に皆部屋を飛び出し、キャスターに乗せ搬送されるのを見た。高熱を発し、全身は染みがついたように変色し、盛り上がった固い皮膚に所々亀裂が走りそこからジクジクと血と膿が混ざった体液が染み出ている。混濁した意識が言わせるのか『目が、目が……』とつぶやいていた。この呟きが奇妙に耳の底に残った。  それから1週間もしない内に、202号室の先輩も同じ症状で救急車の上の人となった。この先輩も『渦だ。渦から逃げろ……』とうわ言のように繰り返していた。  残された我々は「今度は203号室だよ」と話しをした。203号室に住む俺の友人は「目・渦が何か判らないので対策しようがない。ともかく病院に行って聞いてくる。ついでに僕も検査してくる」と言って出かけた。病院で先輩たちは、容態も悪く精神も不安定ということで面会すらできなかった。病院の検査では健康状態という診断だった。  しかしその翌日、203号室の友人と101号室の後輩が皮膚に異常を感じ病院へ向った。付き添いとして同行した俺は「目・渦を見たか」と聞いたが「何も見てない」との答えだ。病院で延々待つ間に、体がかゆいのか爪でポリポリと手や足を掻く友人と後輩。掻く傍から皮膚が盛り上がってくるのが判った。俺は大声を上げ友人を指差し症状を訴えた。2人はその場で隔離され緊急入院した。いよいよアパートには俺だけとなった。  その夜、俺は布団の上にころがり天井を見上げ「次は俺の番だ。でも、目・渦って何だろう」と考えていた。「天井にある丸いものと言えば、電球かな」と、そう思いながら見上げていると、天井板にある小さな染みに気づいた。よく見ると、その小さな染みは天井一杯に渦を描きながらゆっくり広がってくる。  「あれが目なんだ。渦なんだ。逃げなきゃ。直ぐにここを逃げ出さなきゃ」  咄嗟にそう思ったが、その時にはもう体が痺れたようになっていて力が入らない。そして俺は気絶した。
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