貴方は私を愛してくれますか?

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 「わぁ!何て素敵な処なの!うふふ♪連れてきてくれてありがとう、アンセム」  陽光に満たされた青葉茂る山中にロッジが一軒建っている。その少し先には水鳥が遊ぶ湖があり、時折吹く微風には清々しい初夏の香りが混じっていた。そこに今、黒塗りの高級車が一台停車し、助手席から一人の少女が降り立つ。彼女は茶色い髪をくるくると優雅に巻いており、雪の結晶をモチーフにしたブローチを胸に付けた純白のワンピースの両裾を掴んで楽し気に踊っていた。  「喜んでくれて良かった。近頃、何かと塞ぎ込んでいたからな、キトリは」  同じく運転席から降りた黒いスーツ姿のアンセムと呼ばれた彼はサングラスを外して雲ひとつない青空を眩しそうに見詰めて深呼吸した。  「街に比べると格段に空気が上手い。ここでなら君が悪夢にうなされる事もないさ」  「うん... だといいな」  少女キトリは長身な彼アンセムの隣に立ち、腕を絡ませて仔猫のように身体を擦り寄せた。と、その時...  「おいおい、あの事件から一年半は経過してるんだぜ?それが最近になってアンタを苦しめてるってか?キトリさんよ」  後部座席のドアが勢いよく開き、Tシャツにデニムというラフな格好をした若い男がくちゃりと赤髪を乱暴にかきあげながら車から降り、二人の間に割って入る。まだあどけない少年のような顔をした男はデニムのポケットに両手を突っ込み、赤い舌を出してキトリを威嚇した。すかさず、アンセムが彼の頭を軽く小突いた。  「リュカ、いい加減にしないか。お前がどうしても言うから同行を許可したんだぞ。それに大学が夏休みだからって勉学を疎かにするなよ、いいな」  「分かってるよ!」  リュカは頬を真っ赤に染め、口を尖らせながら一人、車のトランクから荷物を取りだし始める。その姿を見たアンセムは少し長めの髪を揺らして腕を組み、やれやれ... と頭を横に振った。  「ったく... 我が弟ながら、リュカは君に対して優しさの欠片もないからな。すまないな、キトリ」  「うぅん、いいの。リュカはあの事件の被害者である私と刑事である貴方が婚約してる事が許せないだけ。彼にとって貴方は自慢のお兄様、たった二人きりの家族だもん。私の事、疎ましく思って当然よ」  キトリは再び、アンセムの腕に指先を絡ませて、仕方ないよ... と笑って見せた。
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