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家からコンビニまでの道の、わき道を、あちらこちらに入ってみた。
すると、子ども用の小さな公園のほうから声が聞こえた。ブランコや滑り台の黒いシルエットの向こうに、人影が動いている。それも、複数だ。ヨシキが不良にからまれているのではないかと思って、心臓がドキドキし始めた。
「ぼくじゃないよぅ」
「てめえ以外に誰がいるってんだよ」
「違うったら」
「何が、違うったら、だ。何を偉そうにタメ口きいてんだ。違います、だろ」
「違います……」
「てめえしかいねえんだよ、このボケ」
腹に蹴りを入れられたほうが、地面に這いつくばる。
私は自分の目と耳を疑った。
「もう止めてください。お願いだから、山下君」
「山下様、だ」
「山下様……」
「ふざけんな」
ヨシキは、上半身を起こした少年の頭を蹴った。少年は、声にならない声を上げて、後ろに倒れた。
「そうだよ、おまえ、ふざけんな」
「そうだそうだ」
とヨシキの傍らに立っている二人の少年が囃す。
「てめえ、このあいだみたいに、また女子の前で恥ずかしい格好したいのか」
とヨシキがせせら笑いながら言った。
私は体が震えた。怒りのせいである。私は、妻ばかりではなく、ヨシキにも欺かれていたのだ。表面は良い子だが、その裏側はイジメをする陰湿な子どもだったのだ。吉川サキノはあのぱっちりした目で、何を見ていたのか。一時でも彼女に気の惹かれた自分が、恥ずかしかった。
私は滑り台の陰から姿を現して、
「ヨシキ!」
と叫んだ。それから、ずんずんとヨシキの前に進み出た。
「ヨシキ!」
ヨシキが唖然となって、私を見ている。その口がOの字の形に開いている。
ヨシキの取り巻きは、私の剣幕に驚いて、逃げていった。それを見て、イジメられていた子も、どこかに走り去った。
「ヨシキ、おまえがこんなことをやってるとは、思わなかったぞ!」
「お父さん……」
私は拳を振り上げて、ヨシキを殴った。
ヨシキは大きく体を反らせて、
「ギィ~」
と叫びながら後方に倒れた。
えっ?
私は、立ち上がってきたヨシキを、もう一度殴った。
ヨシキは、今度はバク転宙返りをしながら、また、
「ギィ~」
と悲鳴を上げて、派手に地面に倒れた。見事なバク宙だ。
「ヨシキ、おまえ……」
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