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「ギィ~」
と私は喚いて、小ぎれいな舗道に転がった。ここは、都心の、ビルとビルのあいだにある小公園だ。
私の頬を殴ったのは、細身で背の高い、若い男である。白いスリムのジーンズを穿き、胸のあたりにフリルのついたボーダー柄のシャツを着て、人間の世界においては、まごうことなきイケメンだ。
稲妻のような痛みが、肩に走る。
体のキレが悪いせいだ。本当なら、もっと派手に飛び上がってから転がるはずなのに、中途半端にやるから、かえって肩をひどく地面の石材パネルに打ち付けてしまった。
若い女が市原のほうに駆け寄る。女はジャンプして、プリーツのついたピンクのスカートから細い足を出して、市原の胸に蹴りを入れる。
「ギィ~」
と声を上げると、市原はバク転宙返りをして、地に落ちる。市原は若いから、動きがいい。地に体を叩きつけるときは相当な痛みのはずだが、市原は受け身もうまい。
白いハーフパンツに迷彩柄のタンクトップという姿の男が、葛城の顎にパンチを入れる。
葛城は大きく背面で飛び上がり、仰向けに倒れる。
三人の人間たちは、私たちを悪の化身だと考えているから、全力で襲いかかってくる。まるで容赦がない。
「ギィ~」
「ギィ~」
「ギィ~」
人間のヒーローたちに、他の仲間たちも次々と倒される。そのたびに、「ギィ~」と悲鳴を上げる。
ふつうなら、「ギィ~」とは叫ばない。こんなときに自然出る声は、「ああ」とか「わお」とか「痛っ」とかだろう。しかし、私たち特別防衛官の叫び声は、「ギィ~」と定められている。
もし、他の叫び声を上げた場合は、始末書を書かされる。それが重なった場合には、この任務から外される。
私たちは、みな、全身が黒ずくめである。
いや、黒ずくめという表現は適切でない。これが私たちの体そのものなのだ。
人間のヒーローたちと私たちとでは、戦闘力に雲泥の差がある。人間のヒーローたちが赤や黄色や青色のコスチュームに変身する前でさえ、大人と小学生くらいの差がある。もし彼らが変身したら、戦闘力は十倍に上がるから、私たちでは絶対に太刀打ちできない。
変身する前の人間のヒーローたちと闘うのが、私たち特別防衛官の役目である。それによって、いくらかでも彼らの体力を消耗させることができるはずだからだ。そう思わなければ、やってられない。
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