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私たちの後ろから、魔界の怪物が登場する。全身が深緑色のウロコに覆われ、金色の大きな目玉から光線を発射する。三人のヒーローは後方に飛び下がる。そうして、それぞれの色のコスチュームに、一瞬にして変身する。
「レッド・ハイパー!」
「イエロー・ハイパー!」
「ブルー・ハイパー!」
三人が、次々に叫ぶ。
彼らは、七人いるヒーローのうちの三人だ。他の四人は、今回はお休みらしい。
「小癪な。三人まとめて、やっつけてやる!」
と魔界の怪物が叫ぶ。
こうなると、もう私たちの出る幕はない。怪物とヒーローたちは、これから採石場にワープして、そこで闘うのだ。
私たちはそれぞれの体の痛みを堪えながら、お互いに体を支え合ったりして、とぼとぼと魔界の入り口に向かった。
私たちが中に入ると、魔界の入り口が、ボボボ、と音を立てて閉じる。
私たちは、ほっと息をついた。
それから、輪の形に並んで、
「お疲れ様でした」
とあいさつした。
これで、今日の任務は終わりである。
魔界には、すでに夕暮れが訪れている。
私の隣に立っていた市原君が、私の顔を覗き込みながら、
「山下さん、これから、ちょっとだけどうですか?」
と言って、酒を飲むしぐさをする。
「葛城や、福本も、行くって言ってるんですけど」
「それは、いいなあ」
と私は言う。
「しかし、誘ってもらって悪いけど、今日はやめておこう。若い者だけで楽しむといいさ。独身貴族がうらやましいよ」
「そうですか。残念ですけど、じゃあ、またの機会に」
「うん、それじゃあ。お疲れ」
と私は言って、若い連中に手を振る。
私の足は、家のほうに向かう。
彼らが独身貴族なら、私は何だろう?とふと考える。既婚貧民、という言葉が頭に浮かぶ。しかし、既婚というのも、もうあやしい。
私の家は、商店街を抜けた先にある。
商店街の肉屋の前で立ち止まる。メンチカツを買おう。
きっとヨシキは、メンチカツよりもトンカツを買ったほうが喜ぶだろう。しかし、中古とはいえ、ローンを組んで家を買ってしまった以上、食費も節約しなければならない。
肉屋の店主が、威勢のいい声で言う。
「お客さん、ステーキ肉なんて、どうですか? この時間だから、負けとくよ。三割引きで、どう?」
ステーキなら、ヨシキはもっと喜ぶはずだ。
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