0人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ! おまえのような成績のいい奴が大学に行かないで、誰が行くんだ」
「ぼくは高校を出たら就職する」
「就職って? 何か就きたい仕事があるのか?」
「ぼくは防衛官になりたい。それも、お父さんのような特別防衛官に。そうして、魔界の人たちを守りたいんだ」
初めて聞く息子の言葉だった。私は何と言っていいのかわからなかった。嬉しいのが半分、驚いたのが半分。私はやっとのことで、こう言った。
「まだこれから時間はじゅうぶんにある。高校に行ったら、そのあと大学に進みたくなるかもしれない。お父さんと話し合いをしながら、ゆっくり決めて行こうじゃないか」
「そうだね。でも、きっとぼくの考えは変わらないよ」
ヨシキの顔は、強い決意のようなもので輝いていた。私はヨシキの真剣な言葉と眼差しに、いささか気圧された。
それからお互いに黙ってしまったので、気まずい雰囲気になった。ヨシキがその空気を変えるように、明るい声を出した。
「お父さん、明日、学校で二者面談だけど、忘れてないよね」
思い出した。明日、ヨシキの担任と面談するのだった。
「忘れてないとも。午後から年休を取ってある」
と私は答えた。
翌日。私は2年3組の教室で、ヨシキの担任と机を挟んで向き合っていた。
担任は若い女性だった。名前は吉川サキノ、年齢は二十代半ばというところか。目がぱっちりと大きく、色の白い、なかなかの美人だった。ヨシキは毎日この美人と接しているのかと思うと、見当違いではあるが、いささかのうらやましさを感じた。
「ヨシキさんについては、特に申し上げることはありません」
と吉川先生は言った。
「どういうことでしょう?」
と私は訊いた。
「成績はいつも学年のトップ3に入っています。明るくて、他の生徒からの信頼も厚い、学級のリーダー的な存在です。お父さんお母さんの教育がとても素晴らしかったのでしょう」
申し上げることはないと言いながら、担任は、ヨシキについての誉め言葉を滔々と続けた。親の私が照れくさいほどだった。
面談の終わりに、お互いに会釈をすると、吉川サキノの長い髪が揺れて、甘くかぐわしい匂いが、私の鼻に届いた。
最初のコメントを投稿しよう!