第1章

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 帰り道、私はヨシキが讃えられたこともあるが、それ以上に吉川サキノの女性的な魅力に惹きつけられて、心が浮き立つ思いだった。そうして、私は、妻との離婚は必ずしも否定的なものではないことに気づいた。吉川サキノのような若い女性とは言わずとも、私自身、まだ恋愛ができるのだ。これはうれしい発見だった。この半年くらいずっと、頭の上に厚い雲がかかっているような気分だったが、久しぶりに、私は明るい気持ちになった。  夕食の席で、担任との面談の中身をヨシキに話した。  ヨシキは照れくさそうに聞いていた。  「吉川先生はおまえのことをよく見ていてくれるなあ。いい先生だ。そのうえ、美人だし」  「まあね」  ピシャ。  このとき、玄関のほうで何か音がした。  気のせいかもしれないと思ったが、そうではなかった。  ピシャ。ピシャ。ピシャ。ピシャ。ピシャ。  その音が、立て続けに聞こえた。私とヨシキは玄関に行った。薄暗くなった玄関の外に、人影はなかった。  振り返ったとき、私は音の正体を理解した。卵が玄関のドアに投げつけられたのだ。ドアは卵の黄身と白身でベトベトの状態だった。  「誰だ?」  と叫んで、改めて外を見回したが、当然ながら人の姿はなかった。犯人がそのあたりにぐずぐずしているはずがない。  私は誰かの恨みを買っているのか。思い当たる人物はいなかった。  いや、いる。隣の奥さんだ。  しかし、わざわざこんな真似をするだろうか。もし隣の奥さんだったら、逃げ隠れはしないだろう。  ふと、ヨシキの様子がおかしいのに気づいた。恐い顔をして、宙の一点を見ている。こんなヨシキの表情を見るのは初めてだった。  「どうした、ヨシキ?」  ヨシキははっとなって、ふだんの顔に戻った。それから、言った。  「お父さん、ぼく、ちょっとコンビニまで行ってくる。勉強するのに、シャー芯がなくなったんだ」  「ああ、そうか。気をつけて行っておいで」  それから、一時間たっても、ヨシキは帰ってこなかった。コンビニまでは往復でせいぜい二十分というところだ。立ち読みでもしているのか。  さらに三十分が過ぎたが、それでもヨシキは戻らなかった。だんだん、心配になってきた。車に跳ねられたりしていないか。それとも、不良にからまれているとか。  私はヨシキを探しに出た。コンビニまで行ったが、ヨシキの姿はなかった。
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