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涼太も朔も悟も、もちろん俺も、いまはもう10円から手を離してしまっている。
だが1つだけ残された手が、いまだ10円を押さえつけいた。
白くて、柔らかそうな獣の手……。
「……なぁ、動かしてんの、そいつだろ」
恐る恐る指をさす。
「……そいつ?」
涼太は首を傾げながらも、俺の指差す方へと視線を向ける。
「どいつだ?」
もしかして、見えないとでも言うのか。
それはそれは小さな狐のような生物が、机の上にいるというのに。
キーンコーンカーンコーン――
無情にも授業開始のチャイムが鳴り響く。
「席つけよー。いつまで弁当食べてんだ?」
チャイムとほぼ同時に、先生までもが入って来た。
「マジ、先生早くねー?」
涼太は文句を言いながら、紙と10円を掴み、自分達の席へと戻っていく。
「……大丈夫か? ケイ」
あまりに動揺している俺を見てか、朔が声をかけてくれる。
俺は反射的に大丈夫だと頷いてしまっていた。
「ま、涼太なりにケイのこと、楽しませようとしてくれたんじゃね?」
隣の席に着いた朔は、そう言いながら教科書を取り出す。
「……そうだな」
俺もまた、平静を装い教科書を取り出した。
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