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最近、俺がやたらぼんやりしてしまうのには、理由がある。
つい2週間ほど前のこと。
飼っていた犬が他界し、俺は軽いペットロス状態に陥っていた。
自分が生まれた頃から傍にいたため、兄弟同然で、傍にいるのが当たり前だったのに。
俺よりも速いスピードで成長し、寿命を終えてしまった。
朔も悟も涼太も、俺が溺愛していたペットが他界したことは知っている。
今はあえてその話題に触れないでいてくれるが、なにかしら気にしてくれているのだろう。
友達の優しさが身に染みる。
だが、いまはそれどころではない。
俺の目の前では、残された狐もどきがあたふたしている。
「朔、これ、見えるか?」
授業が始まったにも関わらず、俺はこっそり隣の朔に確認する。
「……どれ」
「狐……みたいなやつ」
「狐は見えねぇけど」
つまり霊とかそういう類のものか。
自分に第六感があるとは思いもよらなかったが、こういうかわいい霊なら悪くない。
恐る恐るシャーペンを近づけてみる。
「……っ!」
狐もどきは体をビクつかせ、逃げてゆく。
どうやら宙に浮けるらしい。
ゆっくりした速度で、それでもなんとか俺から距離を取る。
じたばたと宙を彷徨ったかと思うと、教卓に隠れてしまった。
傍にいた教師も、黒板に目を向けていた他の生徒も、気付かないのだろうか。
自分だけが見えるというのは、特別でもあるが孤独でもある。
嬉しいような寂しいような怖いような。
妙な感覚を抱きながら、俺はやっぱりぼんやりしながら、先生の話に耳を傾けた。
次の授業は体育で、着替えや移動をしていたら遊ぶ暇などない。
授業で思いっきり体を動かす。
とはいえ、やっぱり俺は適当に流すだけだが。
教室に戻って来たころには、狐もどきのことなど忘れてしまっていた。
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