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自分でやるから、と拒否しかけた口は途中で止まった。一番大事なものを忘れるなんて、相当混乱している。
「ご主人様?」
窓の白いカーテンを開けて、置いていたブレスレットを箱ごと胸元に抱え込む。直射日光の当たらない部屋ではあるが、じんわりとした熱が伝わってきて心配になってしまう。エメラルドとアンバーの弱点みたいなものなのだ。
「ブレスレット、部屋の中に入れちゃってもよかったのに。エメラルド、熱に弱いだろ? 君の本体だから危なかったんじゃない?」
こちらを一瞬凝視した翠は、なぜか口元を手のひらで覆って震えだした。まさか、何かしらの症状でも出たのか?
「ご主人様が……ただの従者である私なんかを気にかけてくださるなんて! やはりご主人様はお優しい方ですね!」
「……まあ、つまり大丈夫ってことね」
思わず呆れてしまうと、翠は慌てたように背筋を正した。
「失礼いたしました。……実は、本体を持ち運べないのです」
証拠とばかりに、自分の手の中にあるブレスレットのエメラルド部分を摘み上げようとする。思わず目を見張った。まるで縛りつけられたように一ミリも浮き上がらない。水晶やアンバー部分を持ってみても、やはり全く動かなかった。
「……わかった。今度から、気をつけるよ」
図らずも、化身に関しての知識が増えていく。
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