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「翠。君が俺の持つエメラルドの化身みたいなものだっていうのは、わかった。エメラルドが残ってたし、諦めるしかないっていうのが本音だけど」
「少しでも受け入れてくださったのであれば一向に構いません!」
「それで、だ」
素晴らしい焼き加減のトーストを置いて、隣でにこにこと見下ろしている翠に人差し指をつきつけた。
「俺としては、まずその『ご主人様』っていうのをやめてほしい。慣れてないから、くすぐったくって仕方ないんだ」
きっぱりと言い切るのは苦手なはずなのにできてしまうのは、三ヶ月間そばにあったからなのか、微妙にイラッとしてしまうからなのか。
「し、しかし……では、なんとお呼びすれば?」
「普通に名前でも名字でもいいよ」
翠は一度唇を引き結ぶと、なぜか興奮気味に身を乗り出してきた。
「で、では……文秋様とお呼びしても?」
「様はいらないって」
「いえ! それだけは、ご容赦ください」
「じゃあ、せめて『さん』でお願いしたい。貴族っぽくてイヤだ」
「文秋、さん……でございますね。承知、いたしました」
どうして満面の笑顔を浮かべるほど嬉しいのか、よくわからない。
「あと、できれば堅苦しい敬語も何とかしてほしいんだけど」
それがなければまだ、非現実的な感覚はなくなる気がする。あくまで気がするというだけ。
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