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「とんでもございません! 従者の私が、文秋さんとた、タメ語だなんて」
「あ、タメ語とか使うんだ。バッキバキの敬語でもないのか。もうちょっと崩してくれるなら、まあ、いいか」
翠の反応を見るとうっかり出してしまったようだが、むしろそのうっかりをどんどん出してほしい。
食べ終わった食器を片付けようとすると当然のように奪われてしまった。執事なのか従者なのか、とにかく世話をしてくれる人がいるとこんなにも落ち着かないとは、少なくとも貴族的な暮らしは一生肌に合わなそうだ。
「あれ、翠は食べないの? それとも、もう食べたとか?」
スポンジに手を伸ばした背中に問いかけると、顔だけをこちらに向けて緩く首を振った。
「私は、人間の食べ物は口にできないのです。本当に時々ですが、ミネラルウォーターのような綺麗な水だけいただければ問題ございません」
水だけ受け入れられるのは、それも浄化の手段として用いられるからだと思う。本体が石だからなおさら、食べ物は不純物にあたるのだろう。
アイスブルーのデニムに足を通していると洗い物を終えた翠がやってきて、ベッドの上に置いていたシャツに手を伸ばした。
「あっ、い、いい! 俺一人で着替えられるから!」
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