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先手を打たれた翠はわかりやすく肩を落とす。当然の主張をしたまでなのに、あからさまな態度をされると心が痛い。
支度を終えて玄関に向かうと、翠も当然のようについてくる。
「いかがなさいました? 文秋さん」
嫌な予感がしてリビングに引き返した。頭上に疑問符を浮かべる翠に恐る恐る尋ねる。
「あの、さ。もしかして、ついてくる気だったりする?」
「はい。文秋さんがブレスレットをお持ちであれば、必然的にそうなります」
頭を抱えたくなった。つまり大事なパートナーを自宅に置いておかないと、この男の支配からは逃れられないということじゃないか!
思わずエメラルドの表面をなぞると、翠がわずかに身を捩る。
「ふ、文秋さん。その、少々くすぐったいです」
「……ブレスレット、置いてかないといけないなんて……でも、そうじゃないとついてくる……こんな目立つ格好のやつが」
「ああ、それでしたらご安心ください。この身は消しておくことができます。文秋さん含め、他の方にも見えません」
言葉通り、煙が消えていくように身体が見えなくなる。もうファンタジーの世界だった。
『ただ! 私はこれから、荷物持ちというお役目を果たさねばなりません。文秋さん、買い物をなさるんですよね?』
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