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頭の中で円状に響き渡る、エコーがかった声に気持ち悪さを覚えたがそれを上回る衝撃だった。絶望的状況から掬い上げられた気持ちを、一撃で砕いてきた。
寝言は寝てても言わないでほしい。そんなレベルじゃない。
「いい。やっぱり置いてく。俺一人で買い物したい」
「し、しかし! 私は従者ですから。文秋さんもお護りできませんし」
断固として首を横に振った。そろそろ一人きりの時間をもらって落ち着かないと故障してしまう。従者なら、主の精神を労ってほしい。
心の訴えが伝わったのか、翠はやっと納得してくれた。
「では、代わりにこちらを」
一瞬、何をされているのかわからなかった。
「ちょ、ちょっと! いきなりなにを」
「お静かに」
両腕に込められた力に、完全に押さえつけられてしまった。
首筋にある翠の黒髪が鼻孔をくすぐる。かすかな香りは、緑豊かな森に足を踏み入れたようなイメージを抱かせる。
不思議と、落ち着いていた。まるで、あのブレスレットを身につけている時と同じ気分を今、味わっている。男に抱きしめられているのに、不快感がまるで浮かばない。
人間じゃないから? ずっと共にあったエメラルドだから?
「お時間、いただいてありがとうございました。どうぞ、お気をつけて」
最後に後頭部を優しく撫でられて、空気が戻る。本当に一瞬だけ、手を伸ばしたくなる衝動に駆られた。
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