第一話

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「あれっ、浅黄先輩。今日はブレスレットつけてないんすね」 「まあ、ちょっとね」 「……もしかして、落としました?」 「ちゃんとウチにあるよ。いいから仕事しなさいって」  隣の自席に戻ってくるなり目ざとく突っ込んできた後藤大河(ごとうたいが)を軽くあしらって、パソコンに無理やり意識を戻す。  彼が二年前に入社してから隣同士で、いろいろと相談に乗っていたのもあって一番仲がいい後輩だった。  お調子者なのが玉にきずだが、仕事は丁寧で飲み込みも早い。今関わっているプロジェクトに限らず彼も同じチームにいる場合が多く、会社側からはどうもセットで扱われている気がする。  翠は今朝もアラームの役割を果たし、いつもの朝食を用意してくれた。ブレスレットはどうしても持ち出す気になれなかったのだが、昨日とはうって変わり、主張をあっさりと承諾して不思議と落ち着く抱擁をしてきた。  尊重してくれるのはありがたいが、今後どう接していけばいいのかわからない。  何せ、自分だけのスペースに突然割り込んできたようなものなのだ。ブレスレットで考えれば約三ヶ月間一緒にいたとしても、両手を広げて歓迎できる状態にはとてもいけない。     
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