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とりあえずブレスレットをベッドサイドに置いて、男の腕を掴む。
「ご、ご主人様?」
戸惑う男をリビングに連れて来ると、ソファーに座るよう促した。最初は渋っていた男も、無言で見つめ続けると諦めたように足を揃えて腰を下ろした。
「一体どうやってここに入ってきたのかわからないけど……俺は、お手伝いさんとか雇った覚えはないから。君、どこかの屋敷と間違えてるんじゃない?」
我ながら無茶苦茶だが、他にふさわしい説明があるなら教えてもらいたい。
まず、現在時刻からして非常識なのだ。日付をまたいだばかりの時に訪問していいのは、よほどの親しい人物か肉親くらいしかいない。
加えて、先述の通り他人が侵入できる場所も仕掛けもない。
男はエメラルド色の瞳をたっぷりこちらに投げたあと、我に返ったように思いきり息をのんだ。
「大変申し訳ございません。私としたことが、ご主人様への説明を失念しておりました」
だめだ、話が噛み合ってない。
いっそ無理やり外へ追い出すしかないかと物騒な考えが頭をよぎった時だった。
「私はエメラルドの化身、名前を、和名の翠玉にちなんで翠と申します」
どこぞの貴族相手にでもするように、片膝をついて恭しく頭を下げてきた。
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