第一話

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「先輩が溜め息なんて珍しいっすね。やっぱブレスレットしてないから心細いんですか?」 「まあ、少しはあるかもね……って、もう突っ込むの禁止!」  無意識に、表に出してしまっていたらしい。本当にらしくない。 「ちゃんと用事があるんですって! 質問があるんです?」  大学生の頃から一人暮らしを続けてきて、そのほうが気楽だった身には、まだまだ戸惑いしかない。  帰宅すると、ドラマで観た母親のような笑顔で翠が出迎えてくれた。 「お帰りなさいませ! 本日もお疲れ様でした。鞄、お持ちします」  差し出された手に自然と従ってしまった。  昨日もそうだったが、翠は自分の生活習慣を完全に把握していた。  風呂の後に夕飯を食べること。酒を入れる場合は小さいビール缶一本だけなこと。テレビは気まぐれに観ること。  風呂から上がると、すでに料理が用意されていた。元々好物なのと、調理が簡単だからという理由で作る頻度が高いチャーハンだった。  昨日だけでなく今日も、自分が作ったことのあるメニューなのは偶然なのだろうか。 「いかがなさいましたか? お口に合いませんでしたか?」  心配そうに顔を覗き込んできた翠に、驚きのまま答える。 「いや、俺が作るのと味が一緒で、びっくりして」     
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