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「先輩が溜め息なんて珍しいっすね。やっぱブレスレットしてないから心細いんですか?」
「まあ、少しはあるかもね……って、もう突っ込むの禁止!」
無意識に、表に出してしまっていたらしい。本当にらしくない。
「ちゃんと用事があるんですって! 質問があるんです?」
大学生の頃から一人暮らしを続けてきて、そのほうが気楽だった身には、まだまだ戸惑いしかない。
帰宅すると、ドラマで観た母親のような笑顔で翠が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ! 本日もお疲れ様でした。鞄、お持ちします」
差し出された手に自然と従ってしまった。
昨日もそうだったが、翠は自分の生活習慣を完全に把握していた。
風呂の後に夕飯を食べること。酒を入れる場合は小さいビール缶一本だけなこと。テレビは気まぐれに観ること。
風呂から上がると、すでに料理が用意されていた。元々好物なのと、調理が簡単だからという理由で作る頻度が高いチャーハンだった。
昨日だけでなく今日も、自分が作ったことのあるメニューなのは偶然なのだろうか。
「いかがなさいましたか? お口に合いませんでしたか?」
心配そうに顔を覗き込んできた翠に、驚きのまま答える。
「いや、俺が作るのと味が一緒で、びっくりして」
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