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視界がぐらついたような感覚に襲われる。本体に、何も影響が出ないわけがない。ただ、ゼロではないとしたら?
「……文秋、さん」
気持ちの揺れを制止するように、弱々しい声が響いた。
「このようなことに、なってしまい……重ね重ね、申し訳ございません。完全に、私の落ち度です」
起き上がろうとする身体を慌てて押さえた。
心配をかけまいとするためか、必死に口端を持ち上げようとする姿が痛々しい。そんな気遣いは……してもらう資格なんか、ないのに。
「もういい加減にしなよ兄さん!」
背後から、突然別の声が割り込んできた。
反射的に振り返ると、翠と瓜二つの顔が、はっきりとした苛立ちを刻みながら立っていた。
「……貴族?」
少年と表現してもふさわしそうな、翠よりも幼い顔つきをしている。胸元の白いフリルが特徴の、紺色を基調とした貴族のお坊ちゃん風の服装に身を包んでいる。
……混乱が過ぎて、逆にまじまじと観察してしまった。
「ちょっと、君どっから入って」
「いいからあんたは黙っててくんない?」
ぴしゃり。そんな擬音が聞こえてきそうな断絶ぶりに文字通り言葉をなくす。
明るい茶髪の青年は翠に近寄り、覗き込むようにしゃがんだ。
「……いいと、言ってるだろう。私から説明して、今夜にきちんとした浄化を」
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