193人が本棚に入れています
本棚に追加
/197ページ
『俺だって、ブレスレットがないのは心許ないよ。でも、まだ俺は翠の力をちゃんと把握できてないから、余計に心配なんだ。俺を助けると思って、頼むから聞き入れてほしい』
端末ごと両手で包み込んで頭を下げると、翠はほぼ反射的に案を受け入れることを了承してくれた。
(全くの嘘じゃないけど、利用したみたいで良心は痛むよな)
改札を抜けて、足早に駅の出口へと向かう。週の中日はどうしても疲れが溜まるから、早く帰ってベッドにダイブしたい。
スラックスのポケットから振動が伝わった。画面を確認して、返事の早さにびっくりする。電車を降りる前に連絡を入れたばかりだった。
『お仕事本当にお疲れ様でこざいます! 首を長くしてお待ちしております。何かありましたらすぐにご連絡くださいね』
やっぱり親みたいだ。
胸の辺りがほのかに温かい。気を抜くと口の端が持ち上がってしまいそうになる。
「お帰りなさいませ! 鞄、お持ちしますね」
出迎えてくれた翠が忠犬のようにも見えてきた。鞄を持ってリビングに向かう後ろ姿は、尻尾を激しく振りながらおもちゃを咥えて駆け出しているようだ。
「……え、何か、やけに豪華じゃない?」
最初のコメントを投稿しよう!