194人が本棚に入れています
本棚に追加
今日は土曜日、いや日付が変わりたてだから日曜日か。一週間の疲労がもろに出る。ブレスレットの手入れをしていて、気づかないうちにベッドに倒れ込んでいてもおかしくない。現実の自分は眉根を寄せて寝返りをうっている、そうに違いない。
「……わかりました」
翠は目の前で片膝をつくと、一度断ってから手を取った。白い手袋の下は冷たくも熱くもない、温度の全く感じない皮膚だった。
「すぐに済みます」
手のひらを覆われる。静寂ながら、緊張感のある時間が流れる。問いかけたくても、どんな音も立ててはいけないような空気を感じる。
やがて、あるはずのない異物感が生まれた。同時に覆いが外される。
「これ……エメラルド、か?」
ピアスの装飾にでも使われていそうな、小さな緑の粒が出現していた。もう片方の親指と人差し指でそっと摘み、光にかざしてみる。
小さくてもわかる。この透明感は、ブレスレットのエメラルドと同一だ。
「いずれ消えますが、一晩は充分に持ちます。ご主人様がお目覚めになってもその石が残っていたら、現実だと信じて私を受け入れてくださいますか?」
「……すごく疲れてるけど、大丈夫?」
つい問いかけてしまったのは、翠の両肩がぐっと下がり、眉間にわずかな皺が刻まれていたからだった。
「いえ、お気遣いなく。……でも、そうですね。よろしければ、ブレスレットを窓辺に置いておいていただけますか?」
浄化をしてほしい。男はそう告げていた。
最初のコメントを投稿しよう!