第九話

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 キーボードを呼び出して文字を打ち込む。ベッドサイドのテーブルに置いていた器を持って窓辺に歩み寄った。 「ムーンストーンは、願い事、叶えてくれるんだよな……?」  窓を開けた。肌寒くも感じる風が全身を通り過ぎる。  美しい円を描いた月が、雲ひとつない灰混じりの黒い空を飾っている。身体ごと向けて目を閉じると、包み込むような熱が生まれてくるようだった。  愛おしさを込めて、ふたつのエメラルドを撫でる。  破片を淡い光の方向に掲げてから――自らの体内に流し込んだ。 「お前だけを、危険な目に遭わせたりしない。俺も、お前を護るから」  だから、かえってきてほしい。また、隣にいてほしい。  ムーンストーンを口の中に含む。  ブレスレットを握りしめた両手を、額に押し当てて願いを繰り返す。どれくらいの時間が経ったのかわからなくなっても、身体の感覚がなくなる感覚が襲ってきても、決して止めなかった。  背中に声をかけられた気がして、振り向こうとした瞬間に全身の力が抜けた。  糸の切れる音が、脳裏に響いた。
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