第三話

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「それはこちらの台詞です! 近くのコンビニとは徒歩五分ほどの距離にあるコンビニですよね? もう三十分も経っております!」  身体中をぺたぺた触る手つきがくすぐったい。考えごとをしながらのんびり買い物をしていたら、だいぶ時間を消費していたらしい。 「大丈夫、大丈夫だって! どこも怪我したりしてないよ」 「本当ですか? もう、あの時無理を通してでもご同行するべきだったと後悔しきりで」 「女の子ならともかく、俺は男だよ?」 「そういう油断はいけません!」  真剣な口調で言い切られてしまった。 「文秋さんはご自分の魅力に全く気づいておられない。それに、男でも関係なく物騒な事件に巻き込まれる可能性は大いにあります。もっと危機感をお持ちください」  形のいい眉をつり上げて怒る翠を呆然と見つめて、思わず漏れたのは笑い声だった。 「な、なぜ笑われるのですか! 私は真剣に」 「真剣だから、なんだか親みたいだなって思っちゃって。もし父親が生きてたらこんな感じなのかも? とかさ」  まるで風船がしぼんだように、翠から勢いが消える。気を遣わせたくなくて、努めて声を張り上げた。 「俺と姉さんが小さい時に病気で死んでるから、あんまり覚えてないんだよ。お袋が母親兼父親みたいなパワフルな人でさ。寂しいとかは意外とないんだ」     
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