王女の矜持

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ここは確かに幼い頃から過ごしてきた自分の部屋だ。 けれど、今やジルの部屋と化していて、慣れ親しんだ部屋とは違うように感じる。 そして、自分の主となった男は、父親を死に追いやった国王の腹心。 憎むべきこの男に処女を奪われ、女にされた。 それなのに、今は―――。 ―――……逆らえない。……この方にわたくしは身体だけでなく心までも、奪われてしまったのだから 初めからではなかった。 それは染め物のように、徐々に侵食していき、今や支配するまでとなった。 全てはあの日が始まりなのだ。 母の血を色濃く受け継いだ妹が、アラディスの国王に一矢報いたあの日。 『行きましょうか、我が姫』 そこには食事を終えた妹のマリア。給仕をする為の侍女。そして、警備の為のアラディス国の兵士がいた。 その場にジルが現れたのは必然。 そう、前もって宣言されたのだ。皆の前で寝所に誘うのだと。 周りの空気が止まったかのように、そこにいた誰もが動きを止めた。ソフィア自身も。 「先に湯浴みをなさいますか?」 ヒッ、と息を呑んだのは、隣に座っている妹。それから、からくり人形のようにぎこちなくこちらを見やるのが視界に入った。 「………参ります」 動じた心とは裏腹に、ゆっくりと席を立つと、驚き見開いた瞳が幾つもこちらを向いていた。 ―――……覚悟は…できてるわ ジルは笑みを深めてソフィアの元まで来ると、手を差し出した。 その手を内心忌々しく、けれどなんでもないような顔で取る。 かすかに震えていたのをこの男にはバレてしまったかもしれない。 それでも素知らぬ顔でやり過ごす。 それがソフィアなりの矜持。 「ソフィアっ」 背後からマリアに呼び止められ、つい足を止めてしまった。 瞼を閉じ、ゆっくりと深く呼吸をする。 ―――……大丈夫。わたくしはドゥルワ国の第一王女 自分に言い聞かせるように心の中で呟き、そして振り返った。
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