序章

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こんなはずではなかった。 「どうしてっ!」 爪が食い込み、ぽたりと赤い雫が落ちるのにも気が付かない程、強く拳を握り込む。 痛みなど感じない。 これからの事を考えたら、痛みのうちにも入らない。 怒り。 焦燥。 絶望。 ぐちゃぐちゃに入り混じる感情に、理性が呑み込まれそうになる。 だが、現実は変えられない。 歯を食い縛り、目の前の現状を瞬きもせずに見つめた。 「……っ…く」 歪む視界を元に戻す為、それを袖で拭う。 ―――泣いてる暇など…ない 「私がやらねば…」 腰に刷いた細身の剣を掴み、するりと抜いた。 光るそれを人に向けたことなどない。 だが、やるしかない。 「……僕の役目だ」 それが存在理由なのだから。 そのつぶやきは誰にも聞かれることはなかった。
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