可憐な王子

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「フィル様っ。遊んでいないで上がりますよ。 髪はまた洗って差し上げますからお出になってください」 エリーはフィランゼルの腕を持って引いた。 毎度、エリーはこうして服のまま湯殿に入り、フィランゼルを引っ張り出す。 裸になってしまえば服が濡れる事がないのだが、弟の前で裸になる勇気は持ち合わせていない。 「フィル様っ」 力の入っていない人間のなんと重いことか。 そこでエリーは初めて気が付いたのだ。 フィランゼルの意識がないことに。 エリーは慌てて腕を放すと、顔だけを水面から出させた。 「コーダ!…っ。コーダ!!」 切羽詰まった声に、コーダは立ち上がり、湯殿の深部へと向かう。 湯気の中、主人と姉の姿を湯の中央に見つけると、コーダは躊躇し、立ち止まった。 「コーダ!」 咎める声音に、意を決して湯の中に入る。 そしてフィランゼルが姉の手によって辛うじて顔を出している事、意識がないことに気が付いた。 今度こそ迷う事なく歩を進めると、フィランゼルを抱き上げた。 「あちらへお連れして」 リネンの敷かれた寝台を指差すエリーに頷いて、コーダはザブザブと湯を蹴るように歩を進める。 そして、エリーはフィランゼルに何があったのかを知った。 「………なんてこと」 抱えられた肢体からポタリと落ちた赤い液体。 それが何を知らしめているのかも。 「姉さん、フィル様はどうしたんだ?」 歩を進めながら、エリーに問う。 返答のないエリーを訝しみながら、フィランゼルを台の上に横たわらせた。 見ないようにしていた主人の身体をうっかり見てしまい、コーダは慌てて目を逸らす。 エリーが湯上がりに使用する為の大きなリネンでフィランゼルを覆った。 「ソフィア様をお呼びしてくるわ。あなたはフィランゼル様のお側に」 そう言って身を翻した姉を見送り、再び青白い顔の主人を見下ろした。 「ある意味、きついな」 ため息をついたコーダの頭の中には、主人の裸体でいっぱいだった。
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